★旧館【記念館】のコンテンツから転載
★段落が少し読みにくいかもしれません。
音楽と演奏について
◎リハーサルの進め方(その2)◎
#文末に16年後のネタバレがあります。
だいぶ前に19.リハーサルの進め方 というのを書いた。その「元となる文章」は是非多くの指揮者の方に読んでもらいたいものなのだが、某誌に掲載されたものでもう入手することができない。
その出版社に転載許可を申し出たが返事が一切来ないので、固有名詞を伏せて一部抜粋したいと思う。参考にしていただければ、大変うれしい。
*****************************************************************
演奏家であるなら良い演奏をするために入念な準備をするのはあたり前。
ただこれが100人からなるオーケストラの場合、決められたスケジュールの中でベストに持って行くということがとても大切なことになってくる。
というのも不思議なもので、人間の集団になると音の数が多いせいもあるが、集中力の限界といった問題もあって、誰にでもなるべく早く終わろうとする心理が働くからだ。
だから、もっと練習したいと思う指揮者との間には常に葛藤があり、コンサートマスターとしてその両者の心を読むのはつらくとも楽しいという変な気分に陥る。
○◇フィルハーモニーの場合、定期演奏会の前の練習時間は『3日間』。
指揮者にとっては勝負の時なのだが、その使い方が上手なのがゲ○◇△フ氏なのだ。
彼の場合、初日は全くといってよいほど曲のことを知らないオケを相手に、まず全体を把握させることから始める。
料理でいうと、材料のチェックから、同じ大きさに切り揃えるといった下ごしらえに当たる。4分音符が長すぎたり、8分音符が短すぎたりというようなことがないよう、それぞれの灰汁(あく)を取り除く作業である。
ところが、初日からいきなり素材に色々と手を加えようとする人がいる。
同じ小節を何度も繰り返し弾かせ、細かい部分をいちいち指摘する。速い曲でも、わざとゆっくり弾かせてみたり…。
練習が停滞する。
それに一応プロの集団なワケだから、アマチュア相手のようなパートごとの練習や部分的練習は、プライドを傷つけられたようでちょっと面白くない。しかも、そういう人に限って、限られた時間の中でなぜ今、そんな練習をしなければいけないのか明確に説明できない。
しかも、音符のちょっとしたズレなどが必要以上に気になる質の人が多い。
こうなったら、性格の問題かも…。
さて、2日目は少々難しい事柄を注文できる日である。だから、指揮者にとってはもっとも嫌な日で、逆にオーケストラにとっては楽しい日ではないかと私は思う。
というのも、この日で指揮者のおおよその技量が見抜けるからだ。曲のことをどれくらい知っているか、それぞれの楽器のことをどれくらい知っているか…。
しかし、こんな人がいた。
楽譜には、作曲家の"こう弾いて欲しい"という意図を表すための「音楽記号」が書いてある。
例えば、f(フォルテ)は「強く大きな音量で」という意味だし、<(クレッシェンド)は「だんだん大きな音量で」というように。
通常は、ページの中で多いものでも5,6個は書いてある。
ところが、その指揮者はなんと1ページのすべての音符1個1個に音楽記号を付けてきた。
これには皆、唖然!呆然!?。
1ページの中には多少の差はあるが、第1ヴァイオリンが演奏しなければならない音符は1つの旋律だけでも500~1000ほどの音符がひしめきあっている。
机に向かい、楽譜に書かれてある音符一つ一つ全てにf,p,mp,ffを書いた姿を想像するとぞっとする。
そして、3日目はいよいよ「仕上げの日」である。もう、とにもかくにも繰り返し練習するのみ。
"煮込む"ことが大切である。通し練習なのである。
その3日目の使い方、そこに○ル◇エ△氏のすごさがある。「音」 に対する集中力、各楽器のパートのバランス感覚も抜群だが、簡単にいうと我々をその気にさせるところにある。
例えば、"何が問題なのか"を、我々の想像力で自分自身に気づくように仕向けるのが上手。その一方、オーケストラの良い部分を見つけて認めてくれる。
つまり、プロフェッショナルな部分で我々を信頼して扱ってくれるのだ。だから、それに応えるように我々も彼を信頼して接していく。
その結果、とても同じ集団とは思えない演奏ができたりするのだ。
本番の日はステージで音を出すことになる。いよいよテーブルの上での盛り付けだ。
本当にホールに合った一番良い響きを探して本番に臨む。
本番…それは本当に、一瞬が勝負の瞬間芸術。
そこには、たった3日間ほどの…とは、決して言い切れないような人間ドラマがあり、人間臭さがあるのだ。
#これ、やっぱり指揮者・指導者のどちらにも共通する素晴らしいテキストだと思います。読んで損なし!。
[2005/07/22]
#16年後にネタバレします。オケは日本フィル、書いたのは、コンマスの木野雅之氏、指揮者はワレリー・ゲルギエフ氏です。
[2022/01/03]
音楽と演奏について
◎リハーサルの進め方(その2)◎
#文末に16年後のネタバレがあります。
だいぶ前に19.リハーサルの進め方 というのを書いた。その「元となる文章」は是非多くの指揮者の方に読んでもらいたいものなのだが、某誌に掲載されたものでもう入手することができない。
その出版社に転載許可を申し出たが返事が一切来ないので、固有名詞を伏せて一部抜粋したいと思う。参考にしていただければ、大変うれしい。
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演奏家であるなら良い演奏をするために入念な準備をするのはあたり前。
ただこれが100人からなるオーケストラの場合、決められたスケジュールの中でベストに持って行くということがとても大切なことになってくる。
というのも不思議なもので、人間の集団になると音の数が多いせいもあるが、集中力の限界といった問題もあって、誰にでもなるべく早く終わろうとする心理が働くからだ。
だから、もっと練習したいと思う指揮者との間には常に葛藤があり、コンサートマスターとしてその両者の心を読むのはつらくとも楽しいという変な気分に陥る。
○◇フィルハーモニーの場合、定期演奏会の前の練習時間は『3日間』。
指揮者にとっては勝負の時なのだが、その使い方が上手なのがゲ○◇△フ氏なのだ。
彼の場合、初日は全くといってよいほど曲のことを知らないオケを相手に、まず全体を把握させることから始める。
料理でいうと、材料のチェックから、同じ大きさに切り揃えるといった下ごしらえに当たる。4分音符が長すぎたり、8分音符が短すぎたりというようなことがないよう、それぞれの灰汁(あく)を取り除く作業である。
ところが、初日からいきなり素材に色々と手を加えようとする人がいる。
同じ小節を何度も繰り返し弾かせ、細かい部分をいちいち指摘する。速い曲でも、わざとゆっくり弾かせてみたり…。
練習が停滞する。
それに一応プロの集団なワケだから、アマチュア相手のようなパートごとの練習や部分的練習は、プライドを傷つけられたようでちょっと面白くない。しかも、そういう人に限って、限られた時間の中でなぜ今、そんな練習をしなければいけないのか明確に説明できない。
しかも、音符のちょっとしたズレなどが必要以上に気になる質の人が多い。
こうなったら、性格の問題かも…。
さて、2日目は少々難しい事柄を注文できる日である。だから、指揮者にとってはもっとも嫌な日で、逆にオーケストラにとっては楽しい日ではないかと私は思う。
というのも、この日で指揮者のおおよその技量が見抜けるからだ。曲のことをどれくらい知っているか、それぞれの楽器のことをどれくらい知っているか…。
しかし、こんな人がいた。
楽譜には、作曲家の"こう弾いて欲しい"という意図を表すための「音楽記号」が書いてある。
例えば、f(フォルテ)は「強く大きな音量で」という意味だし、<(クレッシェンド)は「だんだん大きな音量で」というように。
通常は、ページの中で多いものでも5,6個は書いてある。
ところが、その指揮者はなんと1ページのすべての音符1個1個に音楽記号を付けてきた。
これには皆、唖然!呆然!?。
1ページの中には多少の差はあるが、第1ヴァイオリンが演奏しなければならない音符は1つの旋律だけでも500~1000ほどの音符がひしめきあっている。
机に向かい、楽譜に書かれてある音符一つ一つ全てにf,p,mp,ffを書いた姿を想像するとぞっとする。
そして、3日目はいよいよ「仕上げの日」である。もう、とにもかくにも繰り返し練習するのみ。
"煮込む"ことが大切である。通し練習なのである。
その3日目の使い方、そこに○ル◇エ△氏のすごさがある。「音」 に対する集中力、各楽器のパートのバランス感覚も抜群だが、簡単にいうと我々をその気にさせるところにある。
例えば、"何が問題なのか"を、我々の想像力で自分自身に気づくように仕向けるのが上手。その一方、オーケストラの良い部分を見つけて認めてくれる。
つまり、プロフェッショナルな部分で我々を信頼して扱ってくれるのだ。だから、それに応えるように我々も彼を信頼して接していく。
その結果、とても同じ集団とは思えない演奏ができたりするのだ。
本番の日はステージで音を出すことになる。いよいよテーブルの上での盛り付けだ。
本当にホールに合った一番良い響きを探して本番に臨む。
本番…それは本当に、一瞬が勝負の瞬間芸術。
そこには、たった3日間ほどの…とは、決して言い切れないような人間ドラマがあり、人間臭さがあるのだ。
#これ、やっぱり指揮者・指導者のどちらにも共通する素晴らしいテキストだと思います。読んで損なし!。
[2005/07/22]
#16年後にネタバレします。オケは日本フィル、書いたのは、コンマスの木野雅之氏、指揮者はワレリー・ゲルギエフ氏です。
[2022/01/03]
音楽と演奏について 初めの第一歩
合奏練習初日
曲目が決まり、楽譜が配られ、奏者は 時間の許す限り 事前に楽譜を読み込み、さらう。
調性、拍子、望まれるテンポは。(メトロノーム指示があるか、妥当か?、速度を示す記号の有無、意味の解釈)
作曲者(編曲者)は誰か。自分が知っている曲か、初めて聞く(初めて弾く)曲か。
自分(達)が演奏する上で難しい要素は何か、難しい箇所はどこか。どう難しいのか。(楽器の最高・最低音域、音域外、不慣れな音階や旋法、取りにくい跳躍音程、休みが少な過ぎる、多過ぎる休みの次の出のタイミング、等々)。
主役(主旋律)になるところ、脇役(伴奏)になるところはどこか、役割がはっきりしているのか、単純に割り切れないのか。pp〜ffなど作曲家は総譜にダイナミクスを書き込んでいるが、時代背景等に、概して大まかな場合が多い。主旋律にpとか伴奏にfと書いてあっても、どのように表現するかは奏者の力量(経験、音楽的なセンス)に拠かかってくる。
良い演奏とは何か。奏者は楽譜から情報を読み取り、この曲は、この部分は、“こう演奏すべきだろう”という判断を下す。
レベルの高い奏者ほど、パート譜からあるルールを読み取る。また、ルールを読み取るために、総譜を読む。総譜を読むことによって、自分のパートが、自分が、どのようなプレーを要求されているのかが、一層はっきりする。音の強さ、音色、同一パートメンバー、同一セクションメンバー、他のパートやセクションメンバーとの あいだ での、協力、協調、(音楽的な意味での)対立・反行、等々。
これらを限られた時間の中で読み取り、反復練習などで技術的にもある程度克服して、奏者は合奏練習に臨む。合奏だから、複数の奏者が集まる。
楽団といっても、プロ、アマ、学校のクラブ、社会人のクラブなどによって、入団時の技術的な試験やオーディション有無などによってさまざまである。
ウォーミングアップ等を経て、指揮者の登場。指揮者はおそらく最初は、通し合奏を試みる。そして、音楽が始まる。指揮者は、この状況で、何をしなければならないか。
一つ言えることは、自分がスコアを読み、振り方を決定するなどして準備をしてくることと同時に、一人一人の奏者の中でも合奏練習が始まるまでには準備が必要ということ。準備が無ければ、たとえお試し的な通し練習であっても、演奏をすることはできない。演奏経験に乏しい学生のクラブ活動とかなら、何も指示・指導が無ければ 棒吹き にもなるだろうが、経験豊かな奏者にとって、意味のない棒吹きはもはや 演奏
ではないだろう。
(まだ指揮者からの指示が無い段階でも)奏者は良い演奏をしたいと強く願っていることを忘れてはいけない。良い演奏とは何か、どうすれば良いかを考え、準備し、その結論が演奏に表れているはず。そこのを指揮者がどう考えているか、どのくらい知っているかということもまた、大切ではなかろうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(参考・齋藤孝訳 孫子の兵法 より)
彼れを知りて己(おの)れを知れば、百戦して殆(あや)うからず。
彼れを知らずして己れを知れば、一勝一負す。
彼れを知らず己れを知らざれば、戦う毎(ごと)に必ず殆うし。
曲目が決まり、楽譜が配られ、奏者は 時間の許す限り 事前に楽譜を読み込み、さらう。
調性、拍子、望まれるテンポは。(メトロノーム指示があるか、妥当か?、速度を示す記号の有無、意味の解釈)
作曲者(編曲者)は誰か。自分が知っている曲か、初めて聞く(初めて弾く)曲か。
自分(達)が演奏する上で難しい要素は何か、難しい箇所はどこか。どう難しいのか。(楽器の最高・最低音域、音域外、不慣れな音階や旋法、取りにくい跳躍音程、休みが少な過ぎる、多過ぎる休みの次の出のタイミング、等々)。
主役(主旋律)になるところ、脇役(伴奏)になるところはどこか、役割がはっきりしているのか、単純に割り切れないのか。pp〜ffなど作曲家は総譜にダイナミクスを書き込んでいるが、時代背景等に、概して大まかな場合が多い。主旋律にpとか伴奏にfと書いてあっても、どのように表現するかは奏者の力量(経験、音楽的なセンス)に拠かかってくる。
良い演奏とは何か。奏者は楽譜から情報を読み取り、この曲は、この部分は、“こう演奏すべきだろう”という判断を下す。
レベルの高い奏者ほど、パート譜からあるルールを読み取る。また、ルールを読み取るために、総譜を読む。総譜を読むことによって、自分のパートが、自分が、どのようなプレーを要求されているのかが、一層はっきりする。音の強さ、音色、同一パートメンバー、同一セクションメンバー、他のパートやセクションメンバーとの あいだ での、協力、協調、(音楽的な意味での)対立・反行、等々。
これらを限られた時間の中で読み取り、反復練習などで技術的にもある程度克服して、奏者は合奏練習に臨む。合奏だから、複数の奏者が集まる。
楽団といっても、プロ、アマ、学校のクラブ、社会人のクラブなどによって、入団時の技術的な試験やオーディション有無などによってさまざまである。
ウォーミングアップ等を経て、指揮者の登場。指揮者はおそらく最初は、通し合奏を試みる。そして、音楽が始まる。指揮者は、この状況で、何をしなければならないか。
一つ言えることは、自分がスコアを読み、振り方を決定するなどして準備をしてくることと同時に、一人一人の奏者の中でも合奏練習が始まるまでには準備が必要ということ。準備が無ければ、たとえお試し的な通し練習であっても、演奏をすることはできない。演奏経験に乏しい学生のクラブ活動とかなら、何も指示・指導が無ければ 棒吹き にもなるだろうが、経験豊かな奏者にとって、意味のない棒吹きはもはや 演奏
ではないだろう。
(まだ指揮者からの指示が無い段階でも)奏者は良い演奏をしたいと強く願っていることを忘れてはいけない。良い演奏とは何か、どうすれば良いかを考え、準備し、その結論が演奏に表れているはず。そこのを指揮者がどう考えているか、どのくらい知っているかということもまた、大切ではなかろうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(参考・齋藤孝訳 孫子の兵法 より)
彼れを知りて己(おの)れを知れば、百戦して殆(あや)うからず。
彼れを知らずして己れを知れば、一勝一負す。
彼れを知らず己れを知らざれば、戦う毎(ごと)に必ず殆うし。
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(2023年1月8日改編)
新ホームページのネタ、日常のつぶやき等々、書いていきたいと思います。
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