◎バトンテクニック練習法(1)裸の大将流◎ [00/02/07版]
ここでは、裸の大将が現在行っている指揮の自習法を紹介する。
これは私が自分の棒の癖を矯正する為に、現在も試行錯誤を重ねている
一つの過程である。
指揮法は、指揮・指導経験の豊かな方に師事することが最も望ましいと思うが、
”指揮法教室”というものが全国そうあちこちとあるわけではなく、諸条件から
師事することが難しい方も多いのではないだろうか。
この練習法が、自分のための練習法を考える一つのヒントとしてお役に立てば
望外の喜びである。
(左手で指揮棒を握る方は、左右を反対に読んでください。)
[用意するもの]
1.大きな鏡
理想は全身が映るもの.。裸の大将のは400×600。ちょっと小さい。(^_^)
2.メトロノーム
8分音符~16分音符まで鳴らせる、カード式の安物が便利。
近所迷惑が気になる方は、音量が変えられるものを選ぶと良い。
3.指揮棒
本番と同じ物。(軽く握っても、落としにくいものが良いような気がするけれど。)
長くなるほど効果的な使いこなしが難しくなるように思う。
練習段階では、長めの棒はあまり勧めない。
指揮棒の長さは、短くなると動きが地味(小さく・遅く)に見えるし、 長くなると
動きが派手に(大きく・早く)見える。
自分の意図と身体運動を伝えやすくするために指揮棒の長さを選び、指揮棒の
長さを考えて身体運動の大きさとスピードをコントロールしよう。
(長さの違う2本の指揮棒を使って鏡の前で振ってみるとよくわかります。)
[2002/05/10追記]
4.ビデオカメラ
たまに撮影しておくと後で比較できる。ちなみに裸の大将は持ってない。
講習会の時は、実家から借りた。(^_^;
[大切なこと]
○イメージを持つこと。自分が持っているイメージ以上の指揮・演奏は出来ない。
○表情以前のニュートラルな動き、正確さ、しなやかさを身につける。
○腕と棒の動きかた、速度、加減速度を敏感に感じ取り、終始完全にコントロール
する能力と、集中力を養う。
○悪条件下でも、美しく前向きな棒が無意識のうちに振れること。
人様の前で指揮をしている時に、"きれいに振らなくちゃ"なんて考えていると
他のことがおろそかになる。
○部屋の中での指揮の練習と、実際の現場での指揮は大きく違なるのだが、
咄嗟に出る判断と棒の動きは普段の訓練次第で随分違ってくると思う。
しかもほんのわずかな差が、現場の指揮では明暗を分ける。
少なくとも1拍前には、次の場面の音楽を示さなくてはならないのだから。
○最も効果を発揮するための条件は毎日やること。
1日サボると半日戻る。継続は力なり。
仕事で疲れている日や酒を飲んだ後でも、"1分でいいからやる"という
こだわりが、実力を生み出す。
○"良い指揮者になりたい"という強い願い。あこがれ。執着心。
[基本練習]
(1)テンポ:4分音符50~60(但し任意)でメトロノームを鳴らす。
裸の大将は、わざとメトロノーム音の"間から開始"し、
メトロノーム音の"間を叩く"ようにしている。
(2)構える:下半身を安定させ、背筋を伸ばす。これを軸とする。
右腕は4拍子の4拍目位置。上腕部のみを静止させ体の他の部分は
リラックスする。特に首から後頭部にかけて不要な力が入ってしまうと、
腕の動きと頭の動きが連動してしまう。頭と腕は、切り離されていること。
※ただし強い「叩き」を作り出すためには、それを支える首から背中に
かけての筋肉の強靭さが必要なのも事実である。
なお、肩こりは大敵だろう・・・( T - T )
(3)予備運動:斎藤指揮法でいう"跳ね上げ"(予拍を振らない)から開始する。
点前の運動を切り取ったかのように。澄んだ気持ちで、色付け無く。
※別項 『円運動を極める』 [00/02/07] ←Click!
(4)-1.円運動
(4)-2.円運動と1拍子を交互に行う
(4)-3.1拍子の繰り返し→2拍子→3拍子→4拍子
腕には繊維の集合体のようなイメージを持ち、繊維が1本ずつほどけて
いくかのようなしなやかさが出るまで続けること。手首は少しだけ使う。
同じテンポで振り幅を変化させると、速度と加速度・減速度も変化する。
数学と理科の実技をしているようなものである。
この辺をつぶさに観察したいが為に、テンポ:4分音符50~60にしている。
(5)拍の叩きは、メトロノーム音(裏拍)と等間隔に。
裏拍にたどり着くのが、早過ぎたり、遅過ぎたりしないように十分に注意する。
"心の中で感じるカウント"によって減速運動を開始し、
"裏拍でのメトロノーム音"によって加速運動を開始する。
風にでも吹かれているような軽やかさが出てくると良いと思う。
(6)あとは自分が好きな拍子、今練習している曲の拍子・テンポなどで心ゆくまま。
裸の大将は、その時の気分で決めることにしている。
1日何分やるかには全くこだわらない。ただし、開始から終了までていねいに。
長時間行う場合は、なめらかさと正確さが時を経てより良く身についていくように。
短時間行う場合は、開始から終了まで最良の運動性と集中力を発揮するように。
(7)単純な動作を極めていくうちに、次第に」新しいアイディアが浮かんでくるように
なると思う。
結局どんな人からの教えも、自分にとってはヒントに過ぎない。
[ヴァリエーション]
1.頭の上に左の手のひらをのせたり、かざしたりしながら練習する。
…姿勢が良くなる。
2.右手の動きはそのまま、左右を向いたり左手で違うことをしたりする。
…指揮動作以外のことがスムーズに行えるようになるための練習。空いた方の手で
コーヒーを飲んだり周りを片付けたりする等、指揮が"ぶれない"ように行ってみる。
3.テンポを変える
…一つのテンポに慣れ親しむと、新しいテンポに慣れるまで、思いのほか時間が
(日にちが)かかることがある。腕がテンポになじむまで、ていねいに練習を
行った方が良いと思う。
4.右腕のひじから先だけ鏡に映るようにしてみる
…腕の運動を緻密に観察するためには、この方が良い。
5."跳ね上げ"だけを練習したい時は、メトロノームのリズムに乗って、
"跳ね上げ→1拍目で静止→4拍目位置に戻る→跳ね上げ…"を繰り返す。
…予拍(空振り)は無しにするか、理由がある時だけ行うようにした方が良いと思う。
入りやすくさせるつもりが、かえって混乱を招いてしまうことがためである。
私もこれが元で、本番中に奏者を飛び出させてしまう失敗をしたことがある。
また、フェルマータの指揮が苦手な人はたいてい、停止後の開始動作に
予拍を入れているうちに訳がわからなくなってくる。
予拍は必要な時もあるが、"(雄弁な)静止→跳ね上げ"という予備運動だけで
音楽を開始できることは、アマチュアであっても必ず身に付けておかなければ
ならない。
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※補足1
様々な指揮動作を"ことば"で表す事については、斎藤秀雄先生の指揮法から
用語や概念をお借りしている部分が多く、(異なる部分もあるが)、基本的な
用語や概念は書物等で勉強しておいて下さい。もし私の文章の中で、誤解を
招くような記述がある場合は、メールにてお知らせ下さい。
※補足2
この練習は1拍を2分割する場合の記述しかしていない。これは最も基礎となる
指揮法に絞って練習したいという私の意向が働いているからである。
※補足3
この練習は、裸の大将が指揮活動を休止した後の1999年3月頃からぼちぼちと
始めたもので、つたない指揮経験と反省の中から生まれたものである。
自分の考え出した練習法によってわずかでも上達すれば、(それが"最善"の
方法でなくとも)指揮者や演奏家に不可欠な"自信"につながると思う。
※補足4
『3.音楽と演奏について』の「トー トー トー」という話も御参照下さい。
[99/09/06]
※補足5
ほぼ毎日、自分を叱咤激励しながら続けて約半年が経った。
1.静止状態の時の緊張感が増してきた。棒をはさむ親指と人差し指の
力の入れ加減で、音楽の微細なニュアンスが左右されるような気がする。
2.裏拍のはめ込みは、いまだ、いい加減になりやすい。(このトレーニング上の事!)
そこで、運動の開始点の設定を、下の点で無く、上の点にしてみる。
メトロノーム音によって、上の点から滑り落ちるのである。
[99/09/18]
※補足6
実際に楽団を指揮する際に想定される、この自習法の長所と短所。
[長所]
1.基本的なわかりやすいフォームを作ることができる。
2.棒を振る事や予備運動に自信が生まれることで、余裕が生まれる。
3.指揮を目で確認する経験を積むことによって、人の指揮から学びとる目を養える。
[短所・注意事項]
1.ぼんやりと指揮をしてしまわないように。特に指揮者は『目が大事』です。
(※)五十嵐清先生は、「奏者も目線が大切」とおっしゃっていました。
2.過度に大振りになったり、単調になってしまわないように。
(たとえば、腕の動きをわずかにして棒先だけを”くゆらせる”ような
指揮法を取る場合も考えられる。)
3.右手にばかり気が行って、左手の動きに気が行かなくならないように。
右手とは違う役割を持たせる。音楽的に重い点を示す。様々なサイン。
(ピアノの練習のように、左手だけを取り出して練習することも有効。)
(※)藏野雅彦先生が、色々なお話をされていました。
[00/02/07]