◎「何かをつかまにゃなぁ...」◎
 

今回は、音楽と全く関係の無い"指揮"の話である。
 

私は電気(弱電)工事関係の仕事を4年ほど続けている。工事の現場管理がメインの

仕事であるが、それは簡単にいえば、熟練・非熟練(笑)の外注さん(いわゆる下請け

職人さん)を使って、現場作業を"指揮"する事である。業界では『番頭』と呼ばれる。

楽団の"指揮"とは、まんざら似ていない事もない。「番頭の仕事は、だんどりが8分、

残り2分"」だといって実によく怒られてきた訳だが、段取り(材料調達・許可申請etc.)

が悪ければ、その日にできるはずの作業ができなくなるのだから大変である。もっとも、

ここ1~2年は、建設不況のあおりもあって、規模・利益共に大きな工事はめっきりと

減ってしまい、自ら電柱に上ったり、電線や駅のホームの上屋などにぶら下がっている

事も多い。私は元々理数系が苦手で、大学の専攻も社会学ときているから、電気工事の

事も最初はさっぱりわからなかった。

学生諸君よ、「オームの法則」くらいは、覚えておいた方が良い。(笑)
 

さて、入社して数ヶ月経ったある晩の事である。デパートの設備関係の工事で、営業

時間外の作業(つまり夜勤)が続いていた。自分一人と外注さんとの慣れない仕事だった。

上司に注文してもらった施工材料が、現場の設備と合わない事が判明し、そのために

特別に来てもらった職人さんの作業ができなくなってしまった。深夜の事だから、上司の

家まで電話して事情を話したところ、どうやら私が設備の用語を勘違いしていた事が

原因であったのだが、「そんなくだらんことで、夜中に家まで電話してくるなよ。」という

ような事をいわれた私は暗くなって、ふさぎ込んだり、ぼやいたりしていた。

その時にその職人さんは、ポツリと一言、こんなことをおっしゃった。

「怒った方も、怒られた方も、何かをつかまにゃなぁ...」
 

この職人さんとは、その後二晩ほど一緒に仕事したきりお会いしていない。冗談が好きで、

気取ったところの無い人だった。その後も何か失敗したり、悲しい事があった時に、

この言葉をふと思い出すのである。

[99/10/20]