『指揮のおけいこ』と『アマチュア指揮者』
 

指揮者の岩城宏之さんが、『指揮のおけいこ』(文藝春秋社)という本を出版された。

私は岩城さんのエッセイを昔から5~6冊くらいは読んでいて、大いに勉強させて

頂いたり、楽しませて頂いたりしてきた。氏のエッセイのユーモアとサービス精神、

飾らない正直な語り口などが、とても好きだ。私が物書き好きになったのも、この

エッセイ好きに端を発している。他には椎名誠さん、斎藤茂太さんなどの影響も

受けているように思う。
 

私が『指揮のおけいこ』を本屋さんで発見したのは、このホームページを開設した

すぐ後だった。この先どんな内容で展開して行こうか、悩んでいた矢先だったので、

これは素晴らしいタイミングで"ネタ本"が見つかったなと小踊りして買ったのだが、

読み終えたときの心境は、やや複雑なものだった。
 

この本は、世間一般の"指揮者"に対するイメージが、現実の"指揮者"の姿とは

かけ離れたものであるという事実を、ユーモアたっぷりに、あるいは涙ながらに、

時には辛辣に解説している傑作エッセイである。"おけいこ"の対象は、一般の

音楽愛好家を想定して書かれている。われわれアマチュア指揮者にとっても役立つ

内容が多く含まれているのは事実だが、一方で一般にいわれる"(職業)指揮者"と

"アマチュア指揮者"の違いもまた、かけ離れたものではないかと思った次第である。

このページを構想しながらずっと、私のような人間が指揮法を語って良いのだろうか、

という漠然とした不安を持っていたが、それはこの本の中でも語られている、

「指揮とは教えられるものではない」という言葉が、引っ掛かっていたからなのである。
 

だが、プロの指揮者には、指揮を師事した人が多いのも事実である。カバン持ちを

していただけだとか、リハーサル風景を覗き見したくらいで教わった事などないという

話も多いが、"何も学ぶものが無かった"ということはないはずだ。

『指揮という"行為"の内の半分くらいは、教えたり習ったりする事が可能である』

というのが、今の私の結論だ。特にアマチュア指揮者は、"指導"という指揮行為とは

また別の次元の問題を抱えている。"指導"してもらうという経験も、あるいはまた、

アマチュア指揮者の勉強の内であるに違いない。
 

そのような立場から、岩城氏がこの本の中で、

『ぼくの指揮についての真意を、大マジメに書く』と断って挙げられている項目について、

あえて反対の事を主張してみようと思う。(笑)

  1.指揮を習うことはできない。         → 1.指揮は、習うことができる

  2.指揮を教えることはできない。          → 2.指揮は、教えることができる

  3.指揮者には、なるヤツだけがなれる。 → 3.指揮者には、どんなヤツでもなれる

  4.指揮者になれないヤツは、なれない。 → 4.指揮者になれないヤツは、いない

岩城さんのいいたい事と、私のいいたい事の違いが、わかっていただけると思う。

"相反している"ということは、"関連している"という事でもあるのだ。
 

最後に私が共感した部分も、一つ引用しておきたいと思う。
 

  ”不自由な外国語だと、余計なことを言う余裕がない。 自分が使える単語で、

   ズバリと要求することになる。

   「a little softer,please」

   ところが母国語だと、

   「あのね、そこのところは曲全体の構成から考えて、前後のバランスを美しくするために

   柔らかめに音を出す方が、作曲者の意図をもっと生かすんじゃないでしょうか.......」

   などと延々としゃべってしまう。

   (中略)

   世界には何カ国語もペラペラの指揮者がゴマンといる。しかし自分が生まれ育った国の

   言葉では、一番自由になる。

   そこにコワイコワイ落とし穴が待っている。”
 

アマチュア指揮者は、職業指揮者よりも、しゃべらなければならない場面が多いような

気がするんです...岩城センセイ!?
 

初出[99/10/15]
改稿[99/10/17]
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"アマチュア指揮者"というコトバは、一般にはあまり使われていない。

殆ど全ての(職業)指揮者は、たとえ常任であっても契約制であるのに対し、アマチュアの、

特に吹奏楽の世界では"指揮者=楽団員"であるケースが、大半を占めていると思う。

このページの題名を決めるに当たっては、『アマチュア指揮者』をいうコトバを使う事に

ついて、正直いって相当迷った。その辺のことについては、近いうちに、洗いざらい

書いてしまいたいと思っている。

(.........聞きたいですか?(^_^;)