◎ 笑けて吹けない!
 

先日のJBAゼミナールでのこと。

私が参加したコースの2日目は合奏法のレッスンで、洗足学園大学の

学生さんのバンドを相手に、11人の指揮者達が奮闘していた。

私は8番目。課題曲は、スッペ(正しく?はズッペ)の喜歌劇『詩人と農夫』

序曲。今まで初級バンド向けの少々時代遅れのレパートリーとバカにして

きた節があるのだが、今回この歳になって実際取り組んでみると、非常に

生き生きとして変化とウィットに富んだ、まばゆいばかりに美しい音楽なん

だなぁといたく感激した。有名なウィーン・フィルのニューイヤーコンサート

の雰囲気をイメージしていただけるとよくわかると思うし、実際に喜歌劇

『美しきガラティア』序曲など、過去には何度か取り上げられているようだ。

ナクソスから出ているスッペ序曲集のCDも買ったが、この2曲や『軽騎兵』

序曲等の魅力を再び垣間見た思いで、これからもっと見直して行きたいと

思っている。


・・・さて、私の出番が巡ってきた。


緊張のし通しではあったが、いつもより数段美しい(失礼m(__)m)バンドの

響きと潤沢なホールの響きが、美しい音楽を一層輝かしく彩り、私は緊張と

興奮と感激をないまぜにくるんだ毛布のように(?)なって指揮をしていたが、

ワルツの場面が来ると(私の見まちがいでなければ)某木管低音パートの

女性奏者が、「もうたまらんわ!」という風に楽器を構えたまま上を向いて

笑いこけていた。この場面にイメージしていた『愉悦』という言葉が、私の

顔の表情で、少々デフォルメされ過ぎていたからに違いない・・・。(^_^;;;

その時はバンドの気持ちをこちらに惹きつけたいと思っているのだから、

「しめた!」と思い、ますます調子に乗って指揮をしていたのだけれど、

後からよく考えてみれば、少々傷つく心が無い訳でもない。(笑)

しかしそういえば、私がふだん指導にお邪魔している学校の生徒からも、

「顔見とったらワラけて吹かれへんかったー!」との苦情を言われた事が、

一度や二度の騒ぎではないのである。(爆)

**************************************************************

ところで今回、私が気を付けようと思ってスコアに大きく書きつけていた

言葉がある。それは『半身で!』という事。

自分の音楽にのめりこみ過ぎないこと、けれど他人事のように醒めても

いないこと。


(ちょっと変な例えの仕方をお許し願いたいが、)指揮者をスイミングの

インストラクターに例えていえば、生徒達の先頭を切って一人で泳ぎ抜き、

ずぶ濡れになってくたびれてしまっているというのは違うけれど、生徒達が

泳いでいる姿をプールサイドから傍観して、上から文句ばかり言っている

のとも違う。

自ら先頭を切って水中にもぐってぐいぐいと泳いでいるかに見えて実は

全体の進行に気を配っており、必要とあらば水から顔を上げて注意を

喚起する。またザバッともぐる・・・。

今自分が、トレーナーに専心して曲の輪郭を作り上げて行こうとしている

のか、それとも指揮者性をアピールして曲をまとめ上げ、音楽を煮詰めて

行こうとしているのか、それをバンドのレヴェルや曲を仕上げる段階

応じて先手打って判断していかなければならないという意味で、

『半身で』と大きくスコアに書き込んだのである。


終始奏者が笑い転げるような表情でリハーサルや本番指揮をしている内は

まだまだ未熟なのかもしれない。しかしながら、指揮者が自分達のバンドを

喜びをもって指揮しているということが伝われば、メンバーにとっても格別に

うれしいことと思う。少なくとも生気の無い顔で、もしくは過度に緊張してこわ

ばった顔で指揮台に立っているよりは、ずっとましではないだろうか?。


いつも溢れんばかりの生気と喜びをもって指揮をさせていただく、これが

私の得意技であるが、のめり込み過ぎ、一人先走ってしまうこと無く、いつも

柔軟に即応できるよう半身で指揮を振れるようになりたいというのが、

今の私の目標である。

[03/01/21]


※昔、ある指揮者講習会で伊藤康英作曲の交響詩『ぐるりよざ』の

第一楽章!を指揮した時、講師の先生にこのようなことを言われた。

「この曲の冒頭の場面が、例えば摂氏零度くらいの冷暗な場所だと

すると、あなたの指揮の温度は”40℃”ぐらいある感じがして、バンド

のメンバーの方々との温度差というものを感じました」・・・(;_;)。

(笑)