◎ 指揮のテクニック・指揮の省略 ◎
 

『指揮法』という言葉は広く使われているが、概してテクニック面が重視

されがちである。音楽学校や指揮法教室などでは当然そうしたテクニック

を主に学ぶのであろうと思うが、一通り勉強を終えて指揮(演奏)の現場に

出て行く指揮者は、指揮法的なテクニックは必要最少限にして、なるべく

効果的に用いるようにし、あるいは「使わずに上手くいくのならば、わざわざ

指揮法テクニックを多用する必要は無い」と思っている側面があることは、

あまり認識されていないように思う。「優れた指揮者とは、テクニックを駆使

する指揮者である」と思われがちだが、本当にそうなのだろうか?。
 

私は何人かの優れた指揮者の方にお話を伺っているうちに、彼らが優れた

指揮法上のテクニックを持っていることよりも、『音楽がスムーズに流れている

時にはむしろ振り過ぎない方が良い事が多い』と思っている点に興味を持った。

また、例えば4拍子を2拍子に、3拍子を1拍子に棒を省略することは、私に

とっては結構勇気のいることだったが、彼らはその音楽に”よりふさわしい”と

思った自分の選択を大切にし、自分のイメージを奏者に積極的に働きかけて

行くため、指揮に大変説得力がある。
 

良い指揮者になるため大切な条件の一つは、「冷静に、余裕を持って演奏を

聴いていること」であると思う。そのためには、なるべく「振る事ばかりに夢中に

ならない」ことがポイントである。

一度音楽が流れ出せば、棒を持つ手は、その音楽にふさわしい表情の美しい

図形を『無意識に』描き、『目線』と『左手』で奏者に対して欲しい音楽の「表情」

「フレーズ」「合図」等を送り込む。そして、それらがうまくいっているかを『耳』で

よ~く聴き、きちんと奏者の演奏に『反応』していれば、奏者も指揮者に、より

注意を払うようになる。

音楽がうまくいっている時に、指揮者が自分達の演奏に満足していると感じる

ことができれば、奏者も満足して大変に演奏がしやすくなる。

また、もし音楽があまりうまく行かない時でも、指揮者の満たされない思いを、

より積極的にキャッチしてくれるようになる。
 

この時、自分が演奏を『よーく聴く』ことができるために、スコアを事前に良く

読んで音楽の構成を頭に入れ、また無意識の内に美しい図形を描けるように

練習を重ねておくのである。
 

演奏者が最も気を使う音楽の「開始」「終了」「テンポの変化」「場面の転換」

などの局面では、指揮者も緊張する。難しい局面で音楽をスムーズに運ぶ為に、

色々なテクニックを学ぶことができるが、難しいテクニックで頭が一杯になって

しまわないように気をつけたい。

音楽の表情が大きく動く時には、指揮者の強いイメージの表出(放出・オーラ)と、

奏者への「行くぞ!」という強い呼びかけといったものが必要なのである。

器用に正確に動く棒(腕)”だけ”を見ても、奏者は音楽の表情や流れ、勢いを

感じることはできない。
 

指揮法上のテクニックというものは『指揮者の思いを通じさせるための一つの

手段』であり、『指揮者が常によく音楽を聴けている状態を維持するため

一つの手段』であるものと理解して、取り組みたいものである。
 

特に独学で指揮法を学ぼうとする若いアマチュア指揮者の方には、この事を

頭にいれておいて欲しいと思う。

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指揮法について書くのは緊張しますが、最近、指揮法について書くことを

避けている自分に気がつき、あえて書いてみました。知識=テクニックではないという

ようなことが言いたかったのです。

しかしまた、「バンド指導の現場では、この問題をどうとらえれば良いか?」

と思い立ちました。指導者性と指揮者性の狭間で、悩んでいる方もいらっしゃると

思いますので、またその点にも触れていきたいと思います。
 
 
 

[01/09/10]