◎ この上に立ったら・・・ ◎
 

以前に私が聴講した、ある管弦楽指揮者講習会でのこと。
 

大学生や大人に混じって、今年吹奏楽部の学生指揮者になったばかり

だという可愛らしい高校生が一人いた。どうやら吹奏楽のコースがある

ことを知らなかったようだ。
 

しかし彼は、せっかく買った課題曲のスコア(ベートヴェン・交響曲第4番)

を家に忘れてきて、講師の先生に借りて講習に臨んだばかりでなく、

自ら選んだ第3楽章の第1小節目から早速指揮につまづいた。

(普通なら2つで振る早い8分の6拍子を、3拍子で「イチ、ニィ、サン」と

振ったので、オケが入れなかった・・・)
 

巷ではさほど有名な曲ではないし、吹奏楽にはあまり無いパターンの

出だしで難しいことは難しいのだが「この曲のCDとか聞いてみた?」

という講師の先生の質問には「ノー」の答えが返ってきた。

この場合、明らかに勉強不足であった。
 

少し思うところあった講師の先生は、その子のそばに寄って指揮台を

指差し、少しユーモアを込めた大阪弁で彼にこう告げた。
 

「ええか、よう聞けよ。この上に立ったらな、生きるか死ぬかや!」
 

その場にいた人間の半分くらいは笑っていたが、後の半分くらいは

なぜか、笑うことができなかった・・・。

[01/06/04]