◎「わかりやすい指揮」と「わかりやすい指揮」の違い◎
昔、「もっとわかりやすく振って欲しい」と言われて困ったことがある。
例えば、音のおしまいを<すぅーっ・・・>と切りたい時そのように振ると、
「どこまで伸ばしていいかわからない」「そんな振り方ではそろわない」と
言われてしまう。しかし、これをわかりやすく(単純に)切ってしまうと、
今度はニュアンスが出ない。
こういった事をどのように解決するか、自分なりに原因の整理ができて
方法論が見つかってしまえば(後から考えれば)「何だそんなことか」と
思えるけれど、経験の浅い時代に合奏の現場で不意にそういうことに
出くわしても、その部分の振り方もニュアンスも釈然としない気持ちを
抱えたまま本番を迎えてしまう、ということがしばしば起こると思う。
以前に、このHPのアンケートで「奏者が指揮者に望むこと」という問いを
発した時にも、『わかりやすく』という回答が多かった。私は過去の自分の
幾つかの体験から、この「わかりやすい指揮ってどんな指揮?」ということ
が、ずっと心の奥に引っ掛かってきた。きっと生涯悩みつづけるのだろう。
最近ふと思ったこと・・・。
「どういう人が指揮者になれるか?」ということを考えた時に、
『自分が欲しい音楽を持っていて他人にもわかるように説明できる人』が、
本当の意味での指揮者になれるではないかと考えてみた。そこに到達する
ためには、少なくとも次の「わかりきった、だが、奥深い」2段階をクリアー
する必要がある。
1.自分が欲しい音楽を、しっかりと(具体的に)見定めること
2.自分が欲しい音楽を、他人にしっかりと(具体的に)説明すること
※『自分が欲しい音楽』とはもちろん、作曲者が書いた意図を追求し、
読み取った内容をも含んでのことである。
つまり「わかりやすい指揮」とは、「棒の動きや奏法的なわかりやすさ」と
「指揮者の意図のわかりやすさ」の、少なくとも二重の意味が含まれている
のではないかということに、最近気が付いたのである。
私の考える「棒の動きや奏法的なわかりやすさ」
1. 準備(予備)運動がある。動きが予測しやすい。
2. 図形はすっきり、打点ははっきりしている。
3. 打点や図形が低すぎない。
4. 奏法の具体的な(概ね理解可能な)指示。
5. サイン(目)やキュー(手)などがある。
6. (不必要に)急峻な動きがない。
7. その他。
私の考える「指揮者の意図のわかりやすさ」
1. 何が欲しいか、どう演奏して欲しいかがわかりやすい。
2. どういう音・音楽が欲しくて「そのように」要求しているかがわかりやすい。
3. 指揮者の演奏解釈(要求内容)に妥当性を感じる。
4. 音楽の本来の意図・響きを見据える力。
5. 自分が欲しい音楽を自分自身で見据える力。
6. その他。
これらは相手が学生か社会人か、プロかアマか、同じバンドでも練習開始
段階か仕上げ段階かなど、音楽的・技術的スキルにより比率が変わること
と思う。絶対的なことと、そうでないことがあるだろうし、2つに分けることが
困難なこともあると思うので、あくまで参考と考えて欲しい。
また、振り方はあまり巧いとは思えないのに音楽が素晴らしかったり、奏者
の評価が高かったりする場合は、『自分が欲しい音楽』や『音楽のイメージ』
を具体的に伝えるのが巧いということなのだろう。
「わかりやすい指揮」と「わかりやすい指揮」の違い、私の考えはおわかり
いただけましたか?。わかりにくい話だったかもしれません。
また何か思い付いたら書きます。
指揮者・奏者の方の御意見も、気長にお待ちしております。(^_^)
[00/08/28]