◎一つの曲を再演すること◎
 

ある楽曲を勉強し、その練習とコンサートでの演奏を成功させていく過程で「テンポの選択」

は重要な問題であり、その計画性と作戦の巧拙が結果に少なからぬ影響をもたらす。

指揮者の力量が最もよく現れ、工夫のしどころであるのだが、時に荷の重い仕事でもある。
 

自分がその曲に感じた「あふれる魅力・インスピレーション」に夢を膨らませつつ、自分

と楽団の力量の可能性と限界、与えられた練習回数なども加味して技術的演奏性を遺憾

なく発揮させる。これはどちらも絶対に犠牲にはできないものだ。

だが、どちらかを優先すればどちらかが犠牲になるということが、現実にはよく起こって

いるのではないだろうか。そしてコンサートが終わったあと、プレイバックを聴いて悶々と

した表情になる指揮者がいる。
 

合奏練習法については、Web上に優れたものが多く発表されているのでそちらを参照

していただきたいと思うが、美味い銀シャリがあってこそネタが引き立つ「上にぎり」を

握るように、まずはしっかりと音が並ぶようになってから、「ネタ」をのせ仕上げにかかる

手法は、共通していることのように思う。
 

ところで、プロに比べて年間の演奏回数が非常に少ないアマチュアの楽団では、一つの

曲を再演する機会が(楽団のやり方により異なることを考慮しても)非常に少ない。

一つの演奏会・プログラムに数ヶ月かけるため、『一つの曲を再演すると練習する側が

飽きてしまう』『より多くの曲を演奏したい』『毎回来ていただくお客さんのためにも、

色々な曲を演奏するべき』などが主な理由だろう。特殊なケースとして、夏のコンクールの

ために曲を練り上げるため、春の定期に取り上げた曲をそのまま持っていくということは

ままあるようだが。

ここは「指揮者の教育研鑚」「楽団の音楽作りの練り上げ」という目的のため、意識して

一つの曲を再演することが役に立つのではないかと考えてみた。(既に実践している楽団

もあるだろうが。)そしてこれは、「指揮者の教育研鑚」ということに取り組むことに対する

提案でもある。
 

プロの世界では、一人の指揮者が生涯の中で多くの楽団と同じレパートリーを幾度も取り

上げ、解釈を深めていくのはいわば当たり前のことだ。リハーサルテクニックのスキルの

面でもプラスになることだろう。同じプログラムで連続してコンサートを持つことも多く、

以前の失敗が次回の成功の糧となることは容易に想像がつく。
 

アマチュアの場合は、1回1回の演奏に対する思い入れが強く、失敗という結果に対して

ナーバスになり過ぎる傾向があるように思う。「生涯を通じて音楽を楽しみ、深めていく」

上では、失敗をすることもまた次への糧として必要な経験である、そう考えてみることも

時には大切ではないだろうか。
 
 

[00/06/19]