◎99年12月JBAゼミナール受講記(指揮法の巻)◎
1999年12月25日~27日に洗足学園大学で開催された、日本吹奏楽指導者協会(JBA)
主催の『吹奏楽ゼミナール・中級コース』というものを受講してきた。
中でも指揮法・合奏法のゼミナールは、このようなホームページを8月に立ち上げて以来
極めて強く関心を持っていたことであり、可能な限り先生の言葉をノートして帰ってきた。
(なんだか取材しに行ったみたいだけど…(^_^; )
どのような形で受講記にまとめようか散々悩んだあげく、前半にはノートした内容の
まとめを、後半には私が受講しながら考えた事を書くことにした。ノートは自分でも後から
読みづらい程の走り書きであり、私の主観も随分混ざっているであろう事を予めお断り
しておく。
機会があれば是非とも先生方の講座に参加して、質問をしてきて下さい。
「教えてね。」(笑)
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[受講ノート・川本統脩先生による指揮法]
※受講者は20~30名程。90分×2コマの間に、斎藤秀雄著『指揮法教程』の
練習曲を、ピアノの原田先生と川本先生御自身の2台のピアノを相手に数名の
受講生が指揮し、指導を受ける。
川本先生は現在、洗足学園大学・日本大学芸術学部・東京アカデミックシンフォニカ
などでご活躍中。
○講義の主な内容
・『指揮法教程』のエッセンスを分かりやすく伝える
・自己の指揮法を生かしつつも無駄を省き、合理性を高める。
○いくつかの要諦
・どんな仕事をしている(音形を演奏している)奏者でも、許容できるような指揮をする。
→例えばメロディを振っていても、伴奏・バス等の人にも受け入れられるように。
・意図した指揮法に近づく最適な方法は「きちっと目的を意識して」指揮をすること。
「どうしたいか」という"目的"を明確にすることから"手段"が生まれる。
ex.)「pにしよう」「fにしよう」「(こういうふうに)cresc.しよう」「(こんなふうに)rit.しよう」
・指揮者は、考えていることをオーバーに伝えなければならない。
・書いてある音符を全部振ることはできない。時には奏者に任せる割り切りも必要。
無理に全部を振ろうとすると、かえって動作が煩雑になって奏者が混乱したり、意図が
不明瞭になるおそれがある。
『奏者を引っ張って行くこと』と『奏者に委ねること』、双方が指揮のテクニックである。
・指揮のクオリティを上げて行くことを心掛ける。
・ソルフェージュ能力を上げて行くことを心掛ける。
○スタート(予備運動)について
・『息を吸って、吐く』ということでフレーズが成り立つ。
・1拍の予備運動だけで"息を吸い、音を出す"という『環境作り』をしていくこと。
…練習時間の節約と効率化のために。指揮者が自分自身を磨いていくために。etc...
・予備運動に2拍とる場合について。
(息を)吐かせて・吸って・スタートする
…残った息を吐かせる。一旦余分な力を抜いてしまう。
※どのようにスタートするかということも、指揮者が何を意図するかによって
いくつかの手段が生まれてくる。
・上方向動作=吸うことを象徴する
・下方向動作=吐くことを象徴する
※息を吸う・吐くことが、指揮を見ていればわかる。
フレーズを感じさせることが出来る。
※手の位置を表す言葉
「4の点(4拍の点)から開始する」
「3の点(3拍の点)で停止する」
…指揮者の手がどの点にいるのか見てわかれば、次の拍がわかる。
…自分が"どこにいるか"がわかる。
・中間予備運動
曲の途中で新たなフレーズの開始を強調したい時、息を吸う事を実感させたい時の
指揮法。引き上げ(跳ね上げ)のみ・直線的な動き。
※関連書籍等ご参照下さい。
○指揮運動の分析用語
点前運動→点→点後運動→裏拍(ト)→・・・
・強調する拍→点前を大きく。さりげない拍→点前を小さく。
・リタルダンド→点後を引き延ばしていく。アッチェレランド→点後を短くしていく。
○図形について
・図形(の軌跡)が交差すると、視覚的に煩雑に感じる→あまり合理的ではない。
・図形を縦長にしていく→マルカートな傾向。
・図形を横長にしていく→レガートな傾向。
○左手の使い方
・右手とは違う仕事、右手(だけ)では表わすことのできない仕事
…cresc.dim.などの持続的な仕事
…装飾音符などの細かなニュアンスetc...
○前後の空間の利用。方向性。
「ください(more)」→腕を前へ(相手に近づける)
「いりません(less)」→腕を体に近づけて(相手から遠ざける)
→例えばピアノにしたい時は、左手を前へ(相手の方へ)出し、
右手を体に近づける(相手から遠ざける)
※曲頭がピアノの場合
短い距離で息を吸いきることができない時には、pであっても少し大き目に振り出す。
(奏者のスキル・指導者の環境作りにもよる)
○フェルマータ
「点」で停止
→息を吸わせる時には、上方向に引き上げ(跳ね上げ)。
→息を吸わずに移行する時は、点後を引き延ばす。
○指揮者の場所
指揮者は、演奏する側と聴く側を兼ねたニュートラルな位置にいる。
そのことを大切に考えるならば、あまり動き回らない方が良い。
※以下は受講者からの質疑。答えの部分はちょっと書き表しにくいこともあったので
筆者が少し頭をひねって文章にまとめてみた。
Q.指揮者は非常に格好良く見える(立っている)が、どのようなことに気をつければ
良いか?
A.大抵の場合指揮者は、自分の前方にいる奏者の方を意識しているが、聴衆をも
意識して指揮する事により、演奏内容プラスの好印象を与えることができる。
Q.暗譜は必要か?
A.覚えてしまうくらい勉強することが大切。ただし、スコアを見ずに振ること自体には
あまり意味が無い。書いてあることが全て覚えられるならばともかく、より細かいところに
目を向けようとしたり、その場その場での演奏にきっちり対応しようとすれば、スコアを
見たほうが良い。
※何人かの指揮の実習者に混じって、私も振らせていただいた。
私の場合は「振りが大きいので細かい表現・ニュアンスが表しにくいかもしれない」、
また「打点が低いが基本的には地面と平行くらいにした方が良い」という内容の
指摘を受けた。(主に"第1拍目"のこと)
過去に何度か指摘されたり自分でも"身に覚え"があったことなので、簡潔な言葉で
的確なアドバイスしていただいて、すごく効いた。
といっても長年の癖だから、そう簡単には直らないだろうけれども。
『私の自習室』もこの問題を解決するため、近々バージョンアップしたいと思って
いろいろと試している。
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川本統脩氏は今年"バンドジャーナル"誌に指揮法のワンポイントレッスンを書かれている。
私自身は"斎藤指揮法の講座"というものに対して、例えば「叩きの練習ばかりさせられる
のかなぁ…」といった"おどろおどろしい"イメージを抱いていたのだが、今回の講座は全く
新鮮な驚きに満ちた講義となった。
"指揮法教程"をどのように実践の指揮に取り入れていくのか、またその教授法については、
斎藤秀雄氏の亡き後も持続的な研究が深化し、発達し続けていると感じた次第である。
・『斎藤指揮法』は是か非かという論じ方は不毛である。
色々な指揮法や考え方があって然るべきだが、斎藤秀雄氏の残した指揮を分析する
方法・用語等の仕事は、「指揮を教授していく」上で測り知れない恩恵をもたらしている。
また、他人の指揮を見ながら研究する時にも威力を発揮する。
『型から入れ、型から出よ。』
・奏者から「指揮がわからない」と言われた時、指揮者は自己の"指揮法"を疑うよりもまず
『(スコアの読みに裏付けられた)明確な意思を持てているかどうか』を疑うべきのようだ。
『指揮法よりアナリーゼの方が大切』という主張は恐らくこの事をいっているのであろう。
「わかりやすい指揮を」とよくいわれるが、奏者が何をもって"わかりやすい"と感じるかは
ケース・バイ・ケースであろう。
・『分割』を用いたリタルダンドの指揮法、『先入』を用いたスビトピアノの指揮法の
話もあったが、簡単な記述で説明する自信が無かったので割愛した。
明快な指揮法を身につける上で大変有効な技術だと思うので、関連書籍等ご参照
いただきたい。
※ただし『分割』の指揮法は"用い過ぎない方が良い"という話もある。
・常に指揮動作と呼吸の関連を意識することによりある冷静さを保ち、”情緒てんめん”に
なってしまうことが避けられるのではないか。(特に大曲)
・"暗譜"には「奏者とのアイコンタクトが自由に取れる」という利点がある。
スコアを見ながら指揮する時には、「肝心な所で下を向かないようにする」、
「ページをめくる"場所"を意識して覚えておくか、印をつけておく」等の配慮に
よってその点を補うことが必要だと考えられる。
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「合奏法の巻」も年内にアップしたいので、ここまでにします。
もっと書きたいこと、書きなおしたいこと、省きたいことも出てくると思いますので、
少しずつ改稿していきたいと思います。
今日は大掃除と年賀状とおそばを食べに行くから朝までに更新しなきゃ!
あ、さっきまで怒ってたカミさんが疲れて寝てる。
すまん、カミさん・・・
[99/12/31]