◎ 打楽器の音色とバランス 


打楽器ほど一つ一つの楽器の音色が違うものは無い。まず楽器自体の音色の

違い。シンバルやトライアングルなどは、現実に使われているものはバラバラ

だといってよい。スネアドラムやバスドラムは、皮や響き線の状態や張り具合に

よって、同型の楽器でも音が全然違う。チューニングといっても音程が定まって

いる訳ではないから、チューニングメーターはほぼ役に立たない。打楽器の知識

の無い指揮者はさわりたがらないか、さわると打楽器奏者に叱られてしまうので、

打楽器奏者のセンスに委ねられる。しかし奏者がチューニングを試みるならば

まだ良い方で、チューニング・キイすら見つからないとか、使い方を知らない

という場合も少なくない。スティックやマレットによっても音は変わるが、一通り

必要な種類のスティックやマレットが揃っている学校は、意外に少ない。

下手すると、マレットにソフト・ミディアム・ハードなどの種類があることすら、

知らない。

そして演奏法によっても音は多大に変わる。スティックやマレットを当てて響きを

作るのか、とにかく叩くのみなのか・・・。


かくいう私も打楽器の演奏経験はほとんど無く、打楽器出身の指揮者の方が

流暢に打楽器パートに注文を出しているのが、うらやましくて仕方がない。

空いた時間を利用してせっせと打楽器をさわらせてもらい、簡単な曲の時に

無理をお願いして演奏体験させてもらったりと涙ぐましい(?)努力が必要なの

である。


しかし、この課題曲の聴き比べというのは、実に打楽器の勉強には好適である。

第2の指揮者と言っても過言ではないほど演奏に多大なる影響力を持つスネア

ドラムの音量、バランスの変化、音色の変化など、上手な演奏を聞き比べると

そのヒミツが少しだけよくわかる。コンクールなど聞いていると、スネアドラムの

細かい音符のプレーが、「ザーッ」とハーモニーの響きをかき消している場面に

よく出会うくらい、バランスと音色命の楽器である。サスペンデッド・シンバルの

使い方には、創意を感じることが多い。演奏効果の魔術師というべきか。

その他の打楽器についても非常に勉強になるし、楽譜には書かれていない

工夫や裏ワザもたくさん発見できる。その団体によって、最も音色やバランスの

異なるパートだけに、非常におもしろい。音を聴けばどんな叩き方をしているのか、

DVDを見なくてもなんとなく感じ取れる。もちろん映像を見るのも確かなのだが、

指揮者としては音には敏感でありたい。

[07/01/07]