◎ 課題曲聴き比べのススメ ◎
「マーチ・ベストフレンド」という曲が吹奏楽コンクールの課題曲に
なったのが、2003年。私は初めて全日本吹奏楽コンクール(高校・
後半の部)を聴きに、有名な普門館に赴いた。一言でいうと、高校の部の
演奏のレベルの高さに心底驚いた。
この年はその影響もあって、中学・高校の部を中心にCDを7~8枚ほど
買った。金賞団体のみ課題曲も収録されていたが、その中でも演奏回数
の多かった課題曲4「ベストフレンド」の演奏音源が、10団体分くらい
集まった。個人的にはナマで聴いた与野高の、非常に爽やかな響きと
バランス、バスパートの響きのグレードの高さに驚嘆した。この演奏を
中心に各校のベストフレンドを聴き比べると、どの学校もため息が出る
くらい上手だけど、音色もバランスも演奏解釈も、これまたため息が出る
くらいにみんな違う。私は主に仕事の行き返りの車の中で、音を聴いて
どの学校かわかるぐらい、繰り返し聴き入った。
コンクールのCDは、私としては自由曲より課題曲の方が面白い。課題曲の
中でもマーチの聴き比べは特におもしろい。たった3~4分。ほぼ決まりきった
形式の中で、表現は大げさであれば良い訳ではなく、筋の通ったストーリー作りと、
品の良いバランス感覚が問われる。「普通に演奏しているだけ」みたいなのに
絶妙に巧い演奏。マルカートとレガートの対比。和声を中心としたアナリーゼ
(楽曲分析)に基づく演奏表現の吟味と、楽譜書いていない強弱などの隠し味、
各楽器の吟味された音色とその音色の生かし方(バランス・ブレンド)の妙味。
コンクールとか全国大会というと、何か効果ばかりを狙った大層な表現という
ような「イメージ」ばかりが先行してしまうように思うが、案外と真面目に地道に
音楽表現を追求しているものだなぁと思う。また、プロの演奏だと上手であたり
まえかと思ってしまうけれど、同じ中高生が磨き上げた演奏だと思って聴ける点、
コンクールCDは貴重である。
2005年になると、それまで課題曲収録が金賞団体だけだったのが、中学・
高校の部は全団体分収録となり、課題曲コレクターにとっては格段に都合が
良くなった。2005年度に多く収録された課題曲マーチ「パクス・ロマーナ」「春風」
にもすぐれた演奏が多い。そして2006年度の「架空の伝説のための前奏曲」。
自身が取り組んだ難曲だけあって、どの学校の揺さぶられるような気分で
聴いた。自分が取り組んだ記憶の生々しい曲の演奏というのは、《主観的》
に聴いてしまうからだろう。楽器法の扱いが巧みなのだろうか、色んなパートの
音色や奏法の随所に工夫が聴かれ、スコアを追いながら聴き比べをすることは
何より吹奏楽サウンド表現の勉強になる。全国大会のCDを買い集めていると、
何だかコンクール至上主義者に見られてしまうことが多いけれど、身近に手に
入れることのできる吹奏楽指導の生きたテキストだと思って取り組まなければ
「もったいない」と思う。
また昨年末に、今までにたびたび取り組んできた2001年度の課題曲マーチ
「栄光をたたえて」の演奏に、高校生に混じってユーフォニアムで参加した。
コラール、ファンファーレ、符点音符と3連符の対比、マルカートとレガートの
対比など学ぶところ多く、きちんと演奏することの難しい曲である。2001年
金賞受賞演奏のみのベスト盤6枚組というのが売っていたので手に入れた。
「栄光をたたえて」と「あの丘を越えて」などで優れた演奏が聞き比べできた。
マーチのように比較的簡潔な楽器法の音楽をバランスよく対比をもって演奏
できなければ、より複雑な楽器法で書かれた難曲をきちんと演奏することは
難しい。このよく語られる事実を自分の耳で実感することを吹奏楽技術指導
の第1歩とできれば、後の勉強もスムーズに発展することだろう。
こうしてコンクール音源などを聴いて感じたことと、現場の吹奏楽指導の中で
感じたことを中心に、しばらく筆の止まっていた演奏学”害”論を集中的に
書いてみようと思う。
[07/01/07]