◎ 今年コンクールから学んだこと ◎ 


今年は中学生の部を中心に、いつもの年より少し沢山コンクールを

聴きに行く機会があった。

今年はいつになく冷静に、客観的に演奏を聞くことが出来たのは、

自分がコンクールを振らなかったからかもしれない。審査員席の近くで、

なんとなく審査員の様子も感じながら、色々な団体の力演を聴いて

楽しんだ。私の気持ち的には、熱い演奏は技術に関係なく全部金賞。

でもみんな、長い間頑張って練習してきたのだもの。表現の仕方は

色々あれど、どの演奏からもやる気や熱意は感じ取れる。


今回私についていえば、色んな団体の演奏を公平に聞こうとすると、

演奏解釈とか”曲”ついては、あまり聴いていないことに気付いた。

演奏解釈については、さすがにどの団体も研究してくるから、さほど

ひどいと思うことはまれだし、指揮者に点をつける気は殆どない。


”曲”については自分の好みがあるが、演奏に好感が持てるといい

曲に聞こえて来るし、好きなはずの曲も好感が持てなければ、いい

曲に聞こえてこない。


また、私は今まで『コンクール向きの曲』というのはあるはずだと思って

毎年躍起になって探してきたが、18~9人程度の編成で中学校A組で

金賞を取った『虹色の風』『大草原の歌』を聴いて”ぶったまげて”から、

少し考えが変わった。

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主に初級バンドでよく取り上げられるレックス・ミッチェルの美しく情熱的な

『大草原の歌』は私も大好きで、いつかこれをじっくりと指揮してみたい

思っていた。手元に楽譜を持っておきたいと思い、今年の6月にネットで

注文していたのだが、『版元品切れ、再版予定未定』という回答が返って

きて、大変残念に思っていた。前に『アルメニアンダンス・パート1』を注文

した時もそうだった(絶版という回答)。将来的に再版される可能性もある

かもしれないが、店頭在庫を見つけたら、早めに手に入れておいた方が

良いかもしれない。

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別に確信的な理由があるわけではないが、私の中では『大草原の歌』は

コンクール向きの曲とは思っていなかった。しかしその演奏は、この曲の

美しさや情熱が非常によく伝わってきた。私が過去に少人数に苦しんで

きた経験もあったからだろうか、涙が止まらなくて困った。

常識が覆ったような気がした。

 

この演奏のテープを買ってくり返し聞いた。演奏表現自体は、さほど

達者なものではないのかなと思ったが、とにかく曲の持つ良さとか、

演奏者の思いが、実によく”伝わって”くる。そしてそのサウンドは、

”編成の薄さ”を気にさせない。

・・・これ以上は言葉では説明しにくいけれど。


そんな経験も含めて今回のコンクールで学んだのは、曲をよく吟味し、

演奏解釈を尽くしてそれを奏者に棒や言葉で十分に伝えることができた

としても、ホールに来てくれたお客さんとかコンクールの審査員のところ

まで”よく聞こえる、よく届く”サウンドを作れなければ、十分には伝達し

きらないということだ。上位大会に行けば、サウンドの差がだんだん

少なくなって来るだろうから選曲や指揮の巧拙も関係してくるだろうが、

地区大会ではまず、伝達力・説得力のある”サウンド”という要素で絞ら

れる可能性が強いのではないかと思う。

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たとえばこんな場面を想像してみた。

小さな子がステージに立って、歌を歌っている。それは見るからに感性豊か

そうでかわいらしく、とても好感の持てる子で、声もとてもきれいで歌い方も

ていねいなのだけど、いかんせん”ささやく”ような小さな声しか出ておらず、

審査員である私は、心の中では(おしいなぁ)と思いつ、カラい点を付けざる

得ない。

講評にはおそらくその気持ちを書いた上で、(美しい声と感性豊かな表現を

もっとよく聞かせて下さいね!)という思いを込めて、「発声法をもっとよく

研究して、これから発声の練習をうんとしなさいよ!」と書くと思うのである。

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「よく通る美しい良い声」を吹奏楽におきかえてみると「響きのよく合った

美しく力強いサウンド」という風になるだろうか?。そう思って審査員の

講評用紙を読むと、きっと納得できる部分が多いと思う。


コンクール実績が振るわないとか、自分が指揮・指導しているバンドが

思うように伸びないことを悩んでいる人がいたら、自分の音楽と演奏の

デザインの仕方を一度、このような観点から問い直す必要があるだろう。

指揮法の勉強はできる限りやったし、曲選びや音楽作りは間違っていな

かった。リハーサルも緻密に重ねた。しかし、それを伝達するサウンドは

果たして十分だったか?。いわば前者は演奏の「内容面、コンテンツ面」

であり、後者は「伝達面、通信面」であって、双方のバランスの取り方に

一工夫が必要ではないだろうか?。


これ読んで「そんなのあたりまえだよ!」って思う人も、多いかもしれません。実はちょっと、

書くの恥ずかしかったんです。吹奏楽はあんまり詳しくないとか、コンクールはあんまり

自信が無いと自覚する吹奏楽指揮者のために「考えるヒント」にしてもらえたら、書いた

甲斐 があるんですけどね。いずれにしても、昨年まで必死こいてコンクール指揮やって、

今年コンクールの指揮をお休みしたおかげで、冷静に考えられたのだという気がします。


京都府八幡市立男山第三中学校、府の代表選考会での演奏。


[03/08/10]