◎腕の使い方のヒント◎
・・・指揮表現に幅を持たせるために。


先日吹奏楽コンクールの某地区大会で、一日中色々な指揮者の方を

見ていて思うところがあったので、書いてみようと思う。

(指揮について苦労されている方を見るには、地区大会が一番!。(^_^;)

指揮法のフォームについて、一番よく見かけるタイプをまとめてみると、

1.左右対称形で、右手と左手が同じような拍子図形を描いている。

2.脇の下がくっついている。(肩に力が入っているように見える。)

3.ひじの角度がやや鋭角気味で(60~80度前後)殆ど変化しない。

  (「手羽先状態」と呼んでいる・・・(^_^;)

4.見た目に運動量が多い、指揮棒の動きが速い、激しい。

・・・是非とも鏡の前でチェックしてほしい。

このようなフォームが一概に悪いとは言えないだろう。

例えばテンポが少し速目で一定しているマーチのような曲や、ビートの

効いたポップスのような曲であれば、「安定感」のある良い演奏につな

がると思う。だが、このような悩みは無いだろうか?。

1.裏拍が合わない。裏拍を取るのが苦手である。

2.自分が思っているテンポが、奏者になかなか伝わらない。

自分が欲しいテンポよりも、奏者のテンポが速くなってしまう。

3.非常に遅いテンポや、リタルダンド、フェルマータ等の

  間(ま)の取り方に苦労する。納得のいく表現ができない。

4.速い3拍子や8分の6拍子の指揮が苦手である。

5.指揮をしていて非常に疲れやすい。

6.自分の指揮があまり効率的では無いように感じる。

脇を締め、ひじを固定するようなフォームでは、殆どひじから先しか使わ

ないので、曲想に応じて必要になってくる「重さ」「柔らかさ」「ゆとり」等

の表現が少し行いにくいのではないだろうか?。第1拍目とかフレーズを

開始する拍にきちんと重心を持って来れないと、スムーズな音楽の開始

とか、正しいフレーズ・アクセントの表現がしにくいだろうと思う。

また、微妙なテンポの3拍子を1つ振りで(6拍子を2つ振りで)振る時に、

腕の重さを感じつつ、十分な滞空時間を持った、ゆとりのある動きが

作れないと、テンポが浮き足立ってしまったり、舟歌のような”ゆらいだ

感じ”を表現する事に苦労してしまう。

こんな悩みを持っている指揮者の方は、次のようなフォームを鏡の前で

試してみて欲しい。

○指揮棒を持って、右腕をすっと前に差し出す。

脇の下から意識して腕を離す。ひじから指揮棒の先までを水平にする。

手首の位置を、体の中心線と肩の間の辺りに持ってくる。

(左手は下ろしたまま。)

・・・斎藤指揮法において、右手の基本位置は体の中心だが、きちんとしたレッスンを

受けるのでなければ、急に体のど真中で振る形に変えるのは難しいと思うし、必ずしも

それが唯一正しいというわけでもない。

この新しいフォームでも、マーチやアップテンポの曲等をひじの位置を

固定して振る事も可能である。脇の下に腕をくっつけて振る時の指揮

よりも、この方がより少ない運動量で、効率的・効果的に指揮が出来る

かもしれない。

また、非常に速いテンポを表したい時は、更に手首の位置も固定して、

手先だけで振る方法も良いと思う。この時に、ひじと手首の位置を

前後・上下・左右好きな所に決めることができるので、曲想や好みに

応じて、自由に変化をつけることができる。

しかし私にとってこのフォームが非常に有利に感じたのは、以下の

ような場面である。

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○ゆったりと間をとった、滑らかでスケールの大きな指揮。

○ドラマティックでダイナミックな指揮。

たとえば、大きな筆にたっぷりと墨をつけて大きな半紙に一筆書きを

していくように、肩から腕の重みを利用して自然な動きで指揮をする

事ができる。肩から指揮棒の先までの長さを意識して振ることにより、

ほんの少しの運動で、スケールの大きな表現が出来る事に気付けば

しめたものである。指揮棒を水平にしたまま手首を動かさず、二の腕

から先をエレベーターのように上下に動かしてみると、指揮棒の角度を

変えるよりも、かえって力感のある指揮ができると思わないだろうか?。

忘れてはいけない事は、腕の重みを感じ、腕の重みを利用し、引力を

利用して、できるだけ自然な動きをすることである。つまり「腕を引き

上げれば減速し、腕を引き落とせば加速する」という性質を利用して、

その加減をコントロールするのである。

曲調に応じて(肩から、ひじから、手首から)の「どこから先を中心に

動かすか?」を変えていくことで、曲想に添った幅の広い表現が可能

となってくると思うので試して欲しい。

(あまり大げさで見辛い指揮にならないよう、注意すべきであるが。)

この他に気をつけたいのは、指揮棒の角度指揮棒の位置(高さ)

である。多くの指揮者の方は、指揮棒の基本角度が少し上向きに

なっていると思う。楽曲の中には、指揮者が引っ張っていく方が良い

場面と、指揮を控え目にして奏者の自発的なアンサンブルに委ねた

方が良い場面があるので、

1.指揮者が自分を出さない時には、指揮棒の角度は水平にし、

あるいは指揮棒の位置を低くとる。

2.指揮者がはっきりと拍や意思を示す時には、指揮棒の角度を

上げ、あるいは指揮棒の位置を高くとる。

・・・と考えると、わかりやすいと思う。

○裏拍をはっきりと示したい時。

裏拍を感じるためには、その楽曲を歌いながら、もしくはCDなどに

合わせて、その場で良いから行進してみることである。足は表拍を、

腕は裏拍を表しているから、行進をしてみた時の腕の振り具合が、

そのまま指揮の腕の振りに応用できる。その上で裏拍からの音の

出を示す時は、ひじを高めに引き上げると滞空時間を稼げるため、

裏拍をはめこみ易くなると思う。

さらにはっきりと示したければ、ひじの動きや指揮棒の動きなどに

変化をつけることで、裏拍を作ることもできる。

(この時、あまりわざとらしくならないように気をつけたい。)

○テンポの早い3拍子や6拍子で、3拍を1つ振りで取りたい時。

このような場合も、二の腕やひじを引き上げるようにした方が、拍の

はめこみが楽になると思う。手首や指揮棒の角度の動きを補助的に

用いると、滑らかさが増す。

舞曲調の時には手の平を上向きにして、紙風船をポーンポーンと

放り上げるようなイメージが、腕の使い方のヒントになる。

ピアノの時は低く、フォルテの時は高く放り上げる、という風に。

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(その他補足事項)

○手の平の向きについて。

これも曲調に合わせて変化させることができる。

私の場合、手の平を下向きにすると正確さをアピールしやすく感じ、

上向きにするとエモーション(感情)をアピールしやすく感じる。

色々と変化させてコントラストをつければ良いと思う。

○前後の位置について。

更に指揮の図形を前に持っていったり、体の近くに持ってきたりする

ことでコントラストをつけることもできる。この時、左手を右手と同じ位置

に持ってきたり、互い違いにしたりすることで、多様な変化を作ることが

できる。

○指揮棒の角度について

これは私の考えだが、指揮棒の角度とは指揮者の「声の大きさ」の

ようなものだと思う。ずっと上向きにしたり、せわしなく動かし過ぎて

いると、ずっと大声でどなり続けている人のようになり、肝心な自分の

アピールしたい部分が、知らずしらずの内に伝わりにくくなってしまう

ように思う。

これらが自在にコントロールできるようになってくると、右腕一本で

かなりの表現や場面転換を、またそれらのきっかけから音色まで

奏者に伝える事ができるようになると思う。;

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「左手はどうするのですか?」とよく聞かれるが、必要が無ければ、

左手は下ろしておいて良いと思う。私の場合、右手だけでは物足り

ない場面での補助をしたり、ソロ奏者やパートにキュー(合図)を出す

ことをまず考える。後は「自分がどんな音楽にしたい、どんな音が

欲しい」というイメージを奏者に”インスパイア”するために使うことが

できるが、これはよくスコアを読み込んでイメージを十分につかんで

おかないと、なかなか自然には出てこない。

ただし、イメージを瞬時に左手の表現に置き換えるために、日頃から

上手な指揮者の手の表情を盗んでおく事は、有効であると思う。

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以上、最近私が試行錯誤してきた事を書きなぐってみた。(^_^;

本格的な指揮「法」については、教本を読んだり色んなセミナーなどで

きちんと習うべきだとは思うが、実際に教務や家庭に忙しい先生指揮者

の方だって多いと思うので、ちょっと読んでできそうな風に工夫して書いた

つもりである。

自分の指揮法を否定するのではなく、どんな楽曲を振ってもその曲想に

マッチした指揮表現ができるよう、自分に足りない部分を補っていくという

考え方で、自身の指揮法をブラッシュアップして行くのが良いと思う。

そうすれば、自分の伝えたい事が少しずつ奏者に伝わりやすくなり、

指揮をすることにますますやりがいと自信を感じることができるように

なると信じている。

[02/08/16]