◎宮本亜門さんのお話◎
 

今日もラジオでいい出会いが一つあった。舞台演出家の宮本亜門さんがお話を

されていたのだ。現在70過ぎのお父さんが最近ちょっと元気が無くなったとのこと。

東京の街中でもう長い間喫茶店で珈琲を淹れ続けているのだが、最近近くに大きな

お店が出来て、ちょっと自信を無くされたそうなのだ。

息子に向って「お前はいいなぁ・・・」と弱気にこぼしてしまうこともある近頃のそんな

父親にエールを送りたい、高齢になってもなお人生をのびのびと楽しんでいって欲しい

という願いを込めて、いくつかのエピソードをお話ししてくださった。

聞き覚えなので、あまり上手くは書けませんけれど・・・。
 

ニューヨークに住むある御高齢の日本女性の話。(有名な方かも・・・)

90歳近いというのにニューヨークの街中を完璧な着こなしの着物姿で歩き、20代の

ドイツ語の若い男の先生にときめき、レストランではこってりとしたパスタを平らげる。

何事にも積極的で学ぶ精神が旺盛で、この方に会うたびに勇気とか元気とか、学ぶ事

の楽しさすばらしさをもらってくるのだそうだ。

何より亜門さん楽しそうな話振りが、その思いを生き生きと伝えていた。
 

また、遠藤周作さんから聞いたというある話。

もう危篤状態になったあるおばあさんを、家族が囲んで見守っていた。

彼女はふと「私は人生でまだやり残したことがある。煙草を吸わせてくれないか」と言った

らしい。家族はこんな時に煙草を吸わせるなんてと家族会議を開いたが、おばあちゃんが

言うならと、煙草に火をつけ吸わせてあげたそうだ。「・・・意外と美味いねぇ。」

そして次に「もう一つやり残した事があるんだ。お酒を飲ませてくれないか」と言った。

またまた深刻な家族会議の後、やはり一口お酒を飲ませてあげたそうだ。

「あぁ、これでもう思い残す事は無い。いい人生だったよ。」

そう言ってにっこりと微笑んだ後、おばあちゃんは静かに息を引き取ったそうだ・・・。
 

最後に「僕は親父から沢山のものを"もらった"」と言う亜門さん自身のお話。

人気舞台芸術家として有名な亜門さんも、仕事がうまく行かなかったり煮詰まってしまった

時には、人からの忠告や励ましすら素直に受けとる事が出来なくなってしまうようなことも

幾度もあるという。

ある時も父親が「お前は精一杯やってるんだから自信を持て」と色々励ましてくれたが

ついに耳に入らなかった。今は何を言っても聞かないだろうと悟った父親は、紙の切れ端に

何やらメモして亜門さんのポケットに突っ込み、じゃあなと言って帰ってしまった。後から見た

そのメモには、こう書いてあったそうだ。
 

" 悩んでいるには 人生は短すぎる " と。
 

[00/02/22]